たぬきのたからばこ

宝の箱か 空箱か。母になるってどんなかんじ?を追って

案ずるも産むも易くないよね【40週2日】

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人の子はぽんぽん生まれ、勝手ににょきにょき育っているように見えた。

 当たり前だけど、そんなことはないんだよな。

子の命が宿り、無事出産を終え、成長を見届けられることは、大げさじゃなく奇跡だ。

 

これから長々と出産当日の話を書きます。 

結果から言うと別に壮絶な体験をしたわけではなく、促進剤は使ったものの、帝王切開も免れ、至ってスムーズな出産でした。

それでもタイトルの通りことわざに言いがかりつけたくなるくらいには痛かったし、やはり自分にとって特別な一日だったので書きとめておこうと思った次第です。

 

陣痛きたかも

AM4:50。昨夜踊り狂ったのが功を奏したか、おなか痛め。

昨日いちおうダウンロードしておいた「陣痛きたかも」アプリを起動。痛みを感じたら「陣痛きたかも!」ボタン、痛みが遠のいたら「おさまったかも!」ボタンを押すシンプルな仕組み。陣痛の間隔と陣痛が続いた時間を記録できる。

 

 (この痛みは陣痛なのか?ただのお手洗い的なハライタか??)

 

陣痛きた「かも」の2文字のおかげでそんな些細なことを悩まずに気軽にボタンを押すことができた。

 

痛みには波がある。ぎゅーっと締め付けられるような痛みが1~2分続き、10分弱経って再来する。うわ~ぽいな~と思いながら、冷静に1人記録し続ける。

 

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予定日超過のため今朝から入院し誘発分娩を行うことは決まっていたが、いちおう産院にも連絡。あっさりと予定通り9時に来て下さいね~とのこと。

 「トイレでおなかに力入れても大丈夫でしょうか!?」

 と聞こうかなと思ったけど、甘いぞワタシ、そんなもんじゃ出てこないわ。

 

いざ入院

産院に向け出発。母に車で送ってもらったのだが、くーっ。揺れが地味に辛い。

 受付後、ノンストレステスト開始。この椅子が絶妙に楽な角度なんだよな…陣痛遠のいたか?それでもやはり10分間隔で痛みがあった。張りの数値は30ほど。

 

10:30、陣痛室へ。同伴は夫のみ可だったので母とはここで別れる。

空は青く、部屋にはきらりと輝くシャンデリアがぶら下がっている。なんだかふたりで旅行に来たみたいな気分。浮かれてひとまず記念撮影をする。

 

しかしここはホテルではない。戦場なのだった。

白とピンクの水玉模様のラブリーな戦闘服に着替える。

 

ここから1時間ごとに1錠ずつ、促進剤を飲む。

波が来るとウッとなるもののまだ平気。来たなと思ってはアプリをさっと開き記録。痛くてもじきに引くと思うとそこまでは辛くはなかった。モニターに反映される張りの数値が高くなるのを、ほらほらほんとに痛いんだぞ嘘じゃないんだぞと夫に見せるくらいの余裕はあった。

 

促進剤、NST、内診の繰り返し。

痛みは順調に順調に、強くなっていく、、、、

 

腰がめきめきと音をたてて割れるような痛み。

夫に腰を押してもらう。

いやいやもっと強く!と思ったがかなり全力だったらしい。彼の手はプルプル震えていた。

テニスボールをおしりにと聞いていたが、この時点では効果なし。ただ、力がピンポイントで入るので、自分で持ってぐりぐりと腰や背中を押すことでいくらか痛みが分散する気がした。

 

痛みの間隔は狭まり、1クールは長くなる。今まで1回の波に耐えれば終わったのに、あれまだつづくの!?と2回波が来てから去ることが多くなった。

 

拷問だ…やられる……

 

すーっと涙が出た。痛い。痛いよ。

ていうか自ら薬飲んで痛くするとかどんな趣味だよ…!!

 

体をつんざくような私の苦痛とシンクロするように、外では雷鳴が轟いていた(幻聴かと思った)。

 

律儀につけていた陣痛きたかもアプリの記録は16:20までで途絶えた。「かも」じゃないって。それどころじゃないって。

 

 担当の看護師さんが夜勤の人に交代。やさしくかわいらしいおばさんだったのにこわめのおばさんにチェンジでショック。

次々襲ってくる痛みにひぃひぃしていると、

 

「しっかりして!目を閉じない!ハァハァしない!ふぅーっと力抜く!」

 

と怒られた。

 

いやなんで怒られなきゃいけないの…いたわってよ…! 

 

とふてくされつつ指示に従う(あとになって厳しく言ってもらえてよかったなと思いました)。

 

子宮口がだんだん開いていき、それまで聞かれてもピンとこなかった、

「いきみたくなってきた?」

の感覚がわかってきた。嫌というほど。ほんと嫌でした。

 

これは確実にトイレ案件っ…!!!

 

勝手に力が入ってしまい、でっかいなにかを押しだそう押しだそうとしている。

いきみたいもなにも、

 

いきまずには!

いられないっ!

 

この段階がきつかったなぁ。

ここでようやくテニスボールをおしりにあてたい欲が出てきた。

痛みを和らげるというよりも、でっかいなにかが出てしまわないようになんとか食い止める最後の砦的な役割だった。

 

いざ分娩室

内診のたび着実に開いてくれる子宮口には感謝しかありません。いよいよ9cm(全開は10cm)!

やっと分娩室に移動。

うれしかったなぁ。

出して良い!!という歓び。

 

隣の部屋ではまさに出産真っ最中。

「もっと!!!」「もっと!!!!!」

という声が聞える。

やがて、赤ちゃんの泣き声。

 

しらない誰か、おめでとうございます!!!

そして私も!早く出させて!!お願い早く!!

 

分娩台の上で悶絶しながらNST中の私、まだいきむことはできずにいた。

 

ベテラン感のある助産師さん登場。なんだか心強い。

 

痛みが来たら深呼吸。

そしてもう一度吸って、止めて、へそを見て、いきむ!!

 

何回かやってから、部屋の外にいた夫が呼ばれ入室。

夫の役割はいきむ時に私の頭を持ち上げること、そして私の水分補給。

 

出産はがむしゃらに踏ん張り続けるイメージだったが、陣痛の波に乗せていきむのだと知った。痛みがない間はしっかり休憩。夫に綾鷹を飲ませてもらう。

 

「ためらっちゃだめ!目を開けて!そう!!上手!!」

 

ひいいぃ。もう無理無理、出せない。ていうかどこに力入れればいいのかもよくわかんない。もうギブですって言ったらどうなるんだろと何度も想像した。

でもこれ、私がやらなきゃ、おわんないー!

そしてこんな状況でも「上手」って言われると素直にうれしい。がんばる!!

 

さすがに指示は的確で、へそを見ろだの足ふんばれだのひとつずつ意識することで感覚を掴んでいった。

 

「頭見えてるよ!!」

 

もうなるようになれと、なりふりかまわず力を入れる。呼吸とともに今まで聞いたことのない声が出る。かつて卒業式の練習で返事が小さいがため呼び出された私、こんな大きな声出せたんだ…。

 

 ラストいきみはさすがに痛かった。何が起きているかわからないけど、全力を注ぎながらえぇぇ?まだいく?もっといく?!と自分の想像できる痛みレベルが更新されていく。

 

鼻からスイカ。やったことはないけれど、ある穴に対してどう考えても見合わない大きさの何かを無理矢理押し出す感覚はたしかにそれと近いのかもしれない。どんなシチュエーションだよと思うけど、それだけありえないことしている感覚なのはたしかだった。

 

ブルブルッ

という生々しい感触。なんか出た。

少し経って、ちゃんと泣いた。嬉しい、可愛い、よりまず、

 

すご〜い

 

という感想だった。あんなきちんと人の形した赤ちゃんが、自分のおなかの中で育っていたこと。あんなに大きい生き物を体から出したこと。さっきまでいなかった人間が今そこにいること!

 

10月20日 21:39 3790gの男の子を産みました。

 

どうでもいいんだけど、 知人への報告なんかでも

赤ちゃんが生まれました!

と言う気になかなかなれない。

 

赤ちゃんを産みました!

なんだよな。あくまで主語は私。そりゃ、自分のことだから仕方ないんだけど。

 

私が産んだの、がんばったでしょ、と言いたいのではない。

なんというか出産は、想像したよりもっと明確に、産む側の主体的な行為だと感じた。

私の意思で、ひとりの人間の人生をスタートさせてしまったのだなという責任の重さを感じた。

 

生まれたばかりの赤ちゃんはぬるぬるしわしわで猿みたいで、お世辞にも可愛いとはいえない感じなんだろうなーと覚悟していたが、ふつうに可愛くて(我が子補正)安心した。ていうか

 

いた〜い…

 

産んだ瞬間痛みを忘れるとか言うけどそんなことない。2人目ほしいけど本当に忘れられる日が来るんだろうかこの恨み(恨んでません)。

 

続いてなにやら産後の処置をされる。何をしているのかわからないしわかったら怖くなりそうなので考えたくないけど、ぱちっぱちっと音が聞こえ、ぼこんぼこんと圧迫される。これがわりと長くて、めちゃくちゃ痛い訳じゃないがそれなりに不快で辛かった。産後すぐだから耐えられるのであって、普段いきなりやられたら最悪だろうな。

 

助産師さんが中国系のくせのあるイントネーションでぺらぺらずっとしゃべっていておもしろかったのが救い。何言ってるかよくわかんなかったけど。

 

産みたてほやほやの赤子を脇に抱かせてもらう。ずっしり。

そのまま夫と赤子と、家族3人でぼんやり過ごした。

いきなり外の世界に放り出された赤子は指をしゃぶって心を落ち着かせている様子。さすが、指しゃぶりが原因で歯列矯正をする羽目になった私の息子。おいしいけど、ほどほどに卒業しようね。

 

しばらくして夫も帰り、分娩台から降りる。

 ぽよんと控えめにたるんだおなか。歩き出すと、ズコーーンと床が抜けるように首だけガクッと下がるマジックのように落っこちそうな心地がして手で必死に押さえた。ずっと入っていたものがなくなり、私はぼっかり空洞になってしまった。うぇー気持ち悪い。

 

関係ないけどここで一曲。


ゆらゆら帝国 / 空洞です Live at Factory

 

「どうしたの!出血も少なかったんだししっかりして!」と看護師さんに叱咤されつつふらふらと歩く。

「わざとやってんじゃないんです~力が入らないんです~~ひ~なんで~~・・・」

 

情けない声を出しながら、軟体動物さながらの動きでなんとか部屋に戻るのだった。

 

出産を経て学んだこと

・辛いときこそ目を開けること。目をつぶっていると辛さばかりに夢中になってしまう。

・辛いときはひとまず落ち着いて呼吸をすること。吸うよりふぅーっと吐くことを意識。

これは後々も役立ちそうだな。

はらへった!乳をくれ!とはぁはぁぎゃあぎゃあ泣きわめいている息子にもぜひ教えてあげたい。 

 

早しなら許せそう

案ずるより産むが易し。いや安産だって超痛いのにどこが易いんだいと言葉の尻に噛みつきたくなってしまう。

 

が、たしかに未知の世界で不安だらけの出産だったが、その時になってみないとわからないことばかりだし、その時がくれば嫌でもわかるなってことの連続だった。そしてその時が辛くても始めてしまえば終わりが来る。だからとりあえずうだうだ検索ばっかして不安になるよりやってみればというのはド正論だ。

これからの育児だってなんだってそういうことなんだろう。

 

しかしやっぱ易しは引っかかるわ。案ずるより産むが早し、とかにしてほしい。

以上、たわいもないいちゃもんでした。